スイカごっこ

今のところ創作の話を少々のびのびゴロゴロと

2019-11-01から1ヶ月間の記事一覧

秋と冬のはざまに2019

気づいたら、とっても寒い。季節の移ろいの早さに驚きを隠せませぬ。 ブルブル。 「工場編」が終わったので、なんとなくまとめっぽい日記を書いてみようかと思い、歯の根の合わぬまま文字を打っています。さむぅ。ガタガタ。 かと思うと、ほのかに温かかった…

それじゃ、また工場で

小雨が降っている。細かい雨がフロントガラスに当たって跡を残す。 派遣会社のワゴン車を運転しながら、場藤 (ばとう)乙夏(おとか)は迷った。ワイパーを動かそうか、どうしようか。迷った末に間欠ワイパーを動かすことにした。数秒おきにワイパーが弧を描く…

バスに乗り遅れた3人

「ねむ」 早野が、つぶやいた。 「鍵しめるよー」 隣原が、すでに鍵を回しながら呼び掛けた。 「む、思ったより遅いな」 志地間が、携帯で時間を確認してから述べた。 工場勤務の3人組である。 金髪かつ短髪なのが早野(はやの)寛(かん)、茶髪ゆるパーマが隣…

夜空のたくさんの星と、キャンディの箱

踊谷(おどりや)未来(みらい)は、自分の作業机の上部に取りつけられたLED情報板をにらんだ。 「予定」「実績」、そして「差」それぞれの数値が赤いLEDで表示されていた。「実績」が「予定」を上回らなければならない。 ……のだが、踊谷の「実績」は、い…

名前の迷宮

ピタリ。 吉島(きちじま)恵那(えな)は動きを止めた。何だろう、「opossum」とは。 寮から工場に向かう送迎バスの停留所で、吉島は携帯を持ったまま、しばし硬直した。 送迎バスを待つあいだ、英単語クイズアプリで英単語力をチェックするのが吉島の日課にな…

ゴミを出さねばならぬ

ゴミを出さねばならぬ。耳尾(みみお)洋志(ようじ)は決意した。 しかし、出勤前にゴミを出そうにも、ゴミ集積所が開いていなかった。耳尾がゴミを出そうとした朝の6時台、ゴミ集積所には鍵がかけられたままだった。 ゴミ集積所は、金網で囲まれた大きな直方…

恐るべき火に祈りを

夢を見ている。その自覚がある。「いつもの夢」だ。 2年前、実家でボヤを出したときの記憶がねじ曲がったような。 そんな夢をいつも見る。毬鳥(まりとり)理(おさむ)は夢うつつでそう思った。 周囲には煙しかない。焦げ臭い。薄暗いようなぼんやりした視界、…

集積所に運ばれるあの子たち

「CBがどこに行くか知ってる?」 頭上からそう声をかけられ、渡利(わたり)日奈(ひな)はマスクをつけた顔を上げた。渡利と同じく、作業服、そして帽子とマスクを身につけた音之木(おとのぎ)紗絵(さえ)がこちらを見ていた。声の感じはぶっきらぼうだったが、…

またテレビを見ているふたり

「テレビ?」「……を、録画したやつっす。左々倉さんも見ます? これからひとり上映会やろうと思ってるんすけど」 左々倉(ささくら)栄(えい)の寮の同居人・津井(つい)修悟(しゅうご)のそんな言葉で、急遽上映会が始まった。 左々倉と津井は工場で派遣社員とし…

そんなことより面白い話をしろよ

左々倉(ささくら)栄(えい)は寝返りを打とうとして、打てずにうめいた。 腰が痛い。 今日は起きたときから腰が痛かったため、仕事を休んでしまった。職場に欠勤の連絡を入れたあと、寮の1室で、腰をかばうような体勢をキープしたままウトウトしていた。なん…

ボリボリマン

目が覚めた。家串(いえくし)恵留(めぐる)は、寝床の中で寝返りを打った。 派遣会社から支給された布団。おそらく何人もの派遣社員に使い回されているであろう薄い薄い、春の宵に舞う桜の花びら……のような儚さを感じさせる布団である。 使い回されているとい…

難解な手紙

「拝啓 厳寒之折、小折さんに於かれましては益々御清栄の事とお慶び申し上げます」その文面を見た瞬間、小折(こおり)尚(なお)の動きは止まった。何だこれは。本当に俺に宛てた手紙か?小折はその文章が書かれた手紙を、まじまじと見つめた。 寮であるアパー…

ホッケ氏を見守りたい会

「女子高生ぶるのももう限界かもしれない」 行枝(ゆくえだ)萌(もえ)は悲愴な顔でそう言った。 「限界ってこともないでしょ……年はそう変わらないんだし」 妻藤(さいとう)美咲(みさき)は小さいような大きいような、どちらとも判断のつかない鏡を左手に持ち、マ…

不思議なことが起こる町

不思議なことが起きる。飯賀(いいが)比佐人(ひさと)は朝食の支度をしながら思った。この町に引っ越してきてから、不思議なことが連続で起こる。 飯賀は工場で働いていた。タッドリッケ・伊名井工場という工場で働き、派遣会社が用意した寮に入っている。寮は…

冬の朝、白い息を吐きだして

工場の送迎バスの停留所で、在戸(あると)竜(りゅう)は鼻から息を勢いよく吐き出した。飯賀の言葉を胸の内で反芻する。 「僕が気にしなければいいだけの話なんだけど」 また鼻息が出る。ふんっ。鼻息は白かった。 冬の朝である。在戸が働くタッドリッケ・伊名…

モスコーミュールおじさん

俺はモスコーミュールしか飲まねえ。それはモスコーミュールおじさんの名言として長く語り継がれた。 「うっぷ」「大丈夫ですか、折尾さん」「大丈夫ではないですが大丈夫です、おえ」「あまりふざけてオエオエ言ってると、ほんとに吐きますよ」「そうですね…

真夜中を走るヘッドライトのつくりばなし

高速に乗る。夜の道路を駆ける。スピードを上げる。夜が明ける前に、寮に戻らなくてはならない。 周りに走る車がいなかった。たまに思い出したようにトラックが走っている。飛ばしつつも無理に追い抜く気にはなれない。事故が怖い。今、私が事故るわけにはい…

握った手を離さない

透明な液体の中に揺れる、花。コタツの上に置いたビンを眺める。頬杖をついたまま。 ビンの中に、透明な液体、そして花。 液体の中で、花が動いているように見える。それだけのことだ。 それだけのことが、あたしを喜ばせてくれる。 この液体は水なのかな。 …

4度目はおまえが

小さなころから褒められた。いい子だね、偉いね。 幼稚園でも、小学校でも。だいたいいつも目立つグループ。 中学校で、隣のクラスの鍵沢瞳を初めて見たときに思ったことは。こいつんち、貧乏なんだろうなって。もちろんそんなこと、言葉に出して言わないけ…

片思いの行方

片思いとはいったい何なのか。 鍵沢(かぎさわ)瞳(ひとみ)は、アイシャドウをアイホールに適当に指で伸ばしながら考えた。 自他共に認める適当メイクである。ちょっとスーパーに買い物に出かけるだけなので、そこまで気合いを入れてメイクする必要はない。鍵…

クワガタを飼えばいいのよ

「あっ、出てきた」 祭橋(さいはし)一真(かずま)の寮の部屋で、窓にへばりついて道路を見下ろしていた深丸(ふかまる)大地(だいち)が言った。 「いちいち報告しなくていいです」 祭橋は深丸に向かって言ったが、深丸は聞いていない様子だった。 「俺、挨拶し…

遠くの朝礼

朝である。日勤の朝である。 タッドリッケ・伊名井工場では2交替制をとっていた。日勤と夜勤を交互に繰り返す勤務形態である。 2交替制で24時間工場を稼働させるためには残業が必須である。というわけで、タッドリッケ・伊名井工場で働く面々は、週5日か…

私のお気に入りのパンツが動いたんです

ハッ。移動してる。私のお気に入りのパンツが。 ……という事件があったわけです、昨日の夜に。そうです、私が日勤から寮に帰ってきて、下着を取り出そうとしたそのときにわかった事実です。 え、寮に帰るなり、いきなり下着は変?変じゃないですよ、シャワー…